徳茂 宏樹(#6/LB) コンフォートゾーンを広げる1年
ディフェンスリーダーの1人として
徳茂宏樹はコミュニケーションの強化に注力している。
日本一になるためにアメリカンフットボールを始めた男は、
ディフェンスチームの風通しと結束力を高めて
未だ誰も成し得ていない偉業達成を目指していく。

■アメフトはルールが複雑と言われるが、野球よりはシンプル
——今シーズンから「Xリーグプレミア」がスタートし、リーグの形が変わります。選手の立場からも変化を感じますか?
「いざ始まってみないとわかりませんが、フィールドでやること自体は大きく変わらないと思います。ただ、1試合に登録できるメンバーが少なくなるので、一人ひとりの負担が増えてタフになるでしょうね。それでもフィールドに立ってしまえば、そんなことは言っていられないので、選手は全力でプレーするだけです。1年目は試行錯誤しながら進んでいくと思いますが、より多くの人に興味を持ってもらえるとうれしいです」
——「Xリーグプレミア」では興行価値、競技水準といった要素とともに、地域連携が各チームに求められます。地域との関わりについて、どういったことを考えていますか?
「やっぱりアメフトは日本ではまだマイナースポーツなので、急にテレビ中継が増えて知名度が一気に上がる、というのは現実的ではないと思います。だからこそ、まずは身近な人に興味を持ってもらい、少しずつファンを増やしていく必要があります。以前、川崎市の小学校に訪問してフットボール教室を開かせてもらいましたが、これからもそういった活動には参加したいと思っていますよ。フロンティアーズはもともと、日本におけるアメリカンフットボールへの貢献を大事にしているチームではありますが、今後はより積極的に動いて発信していきたいです」
——マイナースポーツという言葉が出ましたが、初めてアメフトの試合を観る人に対して、観戦のポイントや注目してほしい点など、何か伝えたいことはありますか?
「ちょっと遠回りの話をしていいですか?」
——どうぞ。お願いします。
「この間のWBCも盛り上がりましたが、野球って日本でめちゃくちゃ人気があるじゃないですか。でも、よく考えたら野球のルールは相当難しいはずなんですよ。ストライクゾーンがあって、フォアボールでも出塁できて、外野フライならタッチアップして……」
——でも、ほとんどの人がそのルールを理解しています。
「そうなんですよ。一方で、アメフトはルールが複雑で難しいと言われますが、いやいや野球よりはシンプルですよと(笑)。アメフトは『いかに前進するか』なので、ルールのことをあまりハードルに感じず、ぜひ一度、観に来てほしいですね。とりあえずボールを追ってもらえれば、なんとなくルールが分かってくるはずです。ラグビーのほうが見やすいと感じる理由は、ボールの行方を追いやすいからだと思うのですが、アメフトはボールを隠すところも面白みの一つなので、そのうえで誰がボールを持っているかに注目してもらえたらと思います」

■日本一になることを考えて選んできたキャリア
——野球の話になりましたが、徳茂選手も中学までは野球をプレーされていたんですよね。高校でアメフトに転向した理由は?
「僕は大阪出身なんですけど、大阪は高校野球がめちゃくちゃ強いので、強豪校とトーナメントで当たった瞬間に引退みたいな感じなんです。それって面白くないなと思って。だったら日本一を目指せるスポーツをやろうと」
——日本一になるためにアメリカンフットボールを選んだ。
「そうです。関西大倉高校に入学したのですが、一番強い部活は何だろうかと調べたら、それがアメフト部だったんです」
——ポジションは最初からLB(ラインバッカー)だったのですか?
「最初は何もわからなかったので、アメフトといえばタッチダウン。それで自分もタッチダウンをしたいと思い、レシーバーをやっていました。そうしたら1年生の夏ごろに当時の監督に呼ばれて、『お前はLBをやれ』と。理由は分かりません(笑)。でも、そのおかげで今この場にいるので、監督には感謝しています」
——高校を卒業して明治大学に進みましたが、学生時代に日本一の経験は?
「いや、結局なれませんでした。ただ学生時代に日本一になれていたら、社会人ではプレーしていないと思います。大学4年生のときは普通に就活をしていて、最初はアメフトをやめるつもりだったんです。でも、日本一になるまではやめられないなって。他のチームからも声をかけてもらっていましたが、やるからにはその可能性が一番高い環境でプレーするべきだと。それでフロンティアーズへの入団を決めました。高校でアメフトを選んだのもそうですが、日本一になることを第一に考えましたね」
——在籍2年目の2021年度シーズンに念願の日本一になり、そこからライスボウル3連覇を経験しました。しかし過去2年はタイトルを逃し、日本一への思いが再び強くなっているのでは?
「2年前から同期の大久保(壮哉)が主将を務めているのに、自分たちの世代で日本一になれていないのはやっぱり悔しいです。僕ら同期は仲がいいんですけど、みんなで一緒に旅行に行ったときも、そういう話になるんです。もう一度、連覇できるようなチームにならないといけないよなって。先輩たちが築いてくれたものを受け継いで、しっかりと代替わりしていく姿を見せなければいけません」
——世代交代が進むなか、長くフロンティアーズを牽引してきたLB山岸明生さんが、昨シーズン限りで現役を引退しました。
「尊敬してきた選手なので、やっぱりさみしさはあります。最初は本当に雲の上の存在でしたが、一緒にやっていくうちにチームメンバーとして接することができるようになり、いろいろなことを学ばせてもらいました。その抜けた穴はしっかり僕が埋めなければいけないと思っています」

■まだ誰も達成していない5連覇に挑む
——昨シーズンを振り返ると、レギュラーシーズンはまさかの5位。リーグで2敗したのは2006年以来、19年ぶりのことでした。
「昨シーズンの結果については、ディフェンスチームの一員として責任をすごく感じています。アメフトは、特にディフェンスはコミュニケーションが重要ですが、例えば右側の選手が『A』というサインをしているのに、左側の選手は『B』というサインをしたら、全体が連動して動けなくなる。そういう状況が発生してしまったのが、負けた2試合でした。フィールドコントロールをうまくできなかったので、今シーズンは全員が同じ認識を持ってプレーできるように取り組んでいます」
——どのような取り組みを進めているのでしょうか?
「ディフェンスの正解は一つではないので、いくつかの選択肢があるなか、『A』でも『B』でも、それを全員でやり切れば正解なんです。だからチーム全体が連動することが何より大事で、LBの僕たちが隊形を見て、バシッと指示を出さないといけない。今年はより具体的に、シチュエーションごとに指示系統を明文化したので、昨シーズンのようなミスは起きづらくなっていると思います」
——LBとして、ご自身のプレーで改善したい点はどこですか?
「去年あたりからアメリカのNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)をよく見るようになって、すべてを真似できるとは思いませんが、やっぱり勉強になるところは多いんですよね。NFLの選手はファンブルを狙って、めちゃくちゃボールをパンチするんです。このタイミングでも狙うのかって。僕はパンチがそこまで得意ではないので、NFLを参考にしながら、最近の練習では積極的にパンチするようにしています」
——開幕が近づいてきましたが、チームの状態はいかがですか?
「ディフェンスチームの話をすると、ディフェンスコーディネーターが海島(裕希)さんになってからは選手主導で考えるようになり、今シーズンも始動前にディフェンスのリーダー陣が集まって方針を決めました。始動してから2カ月くらいが経ちましたが、それが形になり始めているので、順調に進んでいると思います」
——今シーズンで在籍7年目となり、立場の変化を感じるのでは?
「そうですね。練習中にふと周りを見渡したら後輩ばかりで、自然とそれを感じます。やっぱり長く在籍している選手がチームをまとめないといけないので、細かいことですが、集合するときは走るとか、素早く次のメニューに移るとか、そういうところは口酸っぱく言っていくつもりです」
——個人としてのテーマはありますか?
「コンフォートゾーンという言葉がありますが、自分の居心地のいい場所にとどまっていてはいけないと思うので、そこから外れる行動を取ることが今年のテーマです。例えば、普段あまり僕が指摘しない選手に対しても、言うべきことがあれば厳しく指摘するとか、チームがより良くなるための行動を意識しています。自分のプレーに関しても、同じ動きばかりをしていたら成長はないので、もっとうまくなるためにミスを恐れずチャレンジングなプレーをする。そうやって自分のコンフォートゾーンを広げていくような1年にしたいと思っています」
——最後に、今シーズンへの意気込みを聞かせてください。
「僕たちがアメフトをできているのは周囲のサポートのおかげであり、この環境は当たり前ではありません。感謝の気持ちを持ってプレーするのは当然のことながら、やっぱり日本一になることでしか、その恩は返せないと思っています。フロンティアーズは勝ち続けなければいけないチームなので、自分たちの世代が中心となって、まだ誰も達成していない5連覇に挑みます」
(取材・文/多賀祐輔)
