【シーズン開幕直前コラム 篠崎澪】地元への恩返しを胸に。レッドウェーブの体現者、篠崎澪のチャレンジ

【シーズン開幕直前コラム 篠崎澪】地元への恩返しを胸に。レッドウェーブの体現者、篠崎澪のチャレンジ

予期せぬ新型コロナウィルスの影響により、レギュラーシーズン途中で幕を閉じた昨シーズンのWリーグ。待ちわびた新シーズンが、ついに9月18日に開幕する。ファイナル進出を目指す富士通レッドウェーブの中で、決意を新たに固めるのが副キャプテン篠崎澪だ。入社1年目でルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得し、今年で7年目。その間、無尽蔵のスタミナでコートを走り続け、レッドウェーブのバスケットスタイルの体現者であり続けた。若手選手のまとめ役も期待される今シーズン、その意気込みを語る。

 

笑顔も忘れない“しなやかな職人”

そのプレーぶりはどこか“職人”を思わせる。しかし頑固一徹、昔ながらの職人とは異なる。柔軟さも兼ね備えた、しなやかな職人と言えばいいだろうか。

ディフェンスでは抜かれることを怖れず、相手との間合いを詰めることでプレッシャーを与える。オフェンスに転じれば、先頭を切ってゴールに向かい、着実にシュートへと結びつける。脚力を生かした力強いプレーは陸上競技をやっていた父のDNAだろうか。一方では、遊びながら磨いたという多彩なテクニックも彼女の真骨頂だ。プレーの成否に一喜一憂するわけではなく、黙々と、淡々と自分の役割に徹しながら、ときおりコートにさわやかな笑顔も振りまいてくれる。それが富士通レッドウェーブの篠崎澪である。

入社7年目の今年は、同年齢の山本千夏さん、篠原恵さんが現役を退いたことでチーム最年長となった。これまで就くことのなかった副キャプテンの役職も任せられ、名実ともにリーダーのひとりとして責務を課せられることになった。

「これまでは、どこかで2人(山本さんと篠原さん)がチームを締めてくれているところがありました。今シーズンはチームが若返ったのもあり、まだ練習でメリハリがつかない部分もあります。2人のようにはいかないかもしれませんが、キャプテンの町田(瑠唯)をバックアップしながら、私自身もチームを締めていきたいと考えています」

決して言葉数が多いタイプではない。むしろ自他ともに認める、背中で引っ張っていくタイプ。それでも今シーズンは、その殻を破ってみたい。いや、破るのではない。自らのスタイルを貫きつつ、新しい自分も引き出してみたい。2020-2021シーズンは篠崎にとって“チャレンジ”のシーズンでもある。

4年越しで届いたWリーグへの想い

2人の姉の影響で小学1年生からバスケットを始めた。いつしか女子バスケットボールの国内最高峰であるWリーグでプレーすることを夢見るようになったが、県立金沢総合高校をインターハイ(高校総体)ベスト4に導いた彼女に、そのオファーは届かなかった。お願いする形で採用してくれそうだったチームも、最終的には大卒選手の獲得を決め、篠崎の枠は消滅した。

それでもWリーグへの思いは変わらなかった。大学へ進学した篠崎は、4年後にあの舞台に立つのだと強く念じ、研鑽の日々を重ねる。結果、学生日本代表として3度ユニバーシアードに参戦し、最終学年時には松蔭大学を日本一に導いてみせた。当然、今度はWリーグの複数チームからオファーが届く。

「いくつのチームから声をかけていただいて、実は富士通とは異なるチームに決めようかなと思っていたんです。でも大学の監督と話をしたときに『神奈川出身の選手が神奈川で頑張っている姿は、神奈川でミニバスをやっている子どもたちの憧れにもなる。自分も頑張ればこうなれるという、励みにもなるんじゃない? あなたはずっと神奈川でバスケットをやってきたし、神奈川のチームに入ることが恩返しになるんじゃないかな?』と言われて、思い直したんです。地元チームから声をかけていただいて、そのチームスタイルも好きだし、自分自身のプレーにも合うと思って、入社を決めました」

大学時代の監督の言葉がなければ、今ごろ篠崎はライバルチームの一員として、レッドウェーブを苦しめる存在になっていたかもしれない。

 

忘れられない瞬間

運命に導かれるようにレッドウェーブに入った篠崎は、ルーキーシーズンからスタメンに抜擢され、持ち前のアグレッシブさでファイナル進出の一翼を担った。

「これまでで一番印象に残っているのは、入社した1年目と2年目にWリーグのファイナルに行ったことです。真っ赤に染まった試合会場でJX-ENEOSサンフラワーズ(今シーズンよりENEOSサンフラワーズに改称)に勝ったことは覚えています。あんな雰囲気の中で、もう一度プレーしてみたいですよね」

「そう考えると、昨シーズンの開幕戦も印象深いです。開幕戦でJX-ENEOSに勝ったことも大きいし、あのときは富士通の赤とJX-ENEOSの黄色できれいに分かれた応援席の光景も、すごく心に残っています」

憧れていた存在から、憧れてもらえる選手へ

今シーズンは新型コロナウィルスの影響もあり、観客動員をどうするのか、ファンとの交流がどこまで許されるのか、現時点でわからない。それでも多くのファンや社員、関係者の前で、そうした人々に支えられてプレーする高揚感を篠崎は心待ちにしている。

同年代の選手たちが現役を退き始め、篠崎もまた自身がキャリアの折り返し地点を過ぎていることを頭の隅に置いている。しかし、それは彼女の衰えを意味するものではない。むしろ引退を決意するまで自分自身を磨き続けようというひとつのきっかけだ。

「こうなりたい、この人みたいな選手になりたいと思い描くような年齢ではありません。今の私は『ああいう選手になりたい……篠崎選手みたいになりたい』と思われるような選手になりたいです」

富士通入りを決めた大学時代の恩師の言葉。コロナ禍で難しいかじ取りを迫られる2020-2021シーズン、あの言葉こそが篠崎澪を突き動かす原動力となっている。

篠崎 澪(しのざきみお)

神奈川県出身、1991年9月12日生まれ、ポジションはGF(ガードフォワード)。2014-2015シーズンにルーキー・オブ・ザ・イヤー獲得。圧倒的な運動量と無尽蔵のスタミナでコートを駆け抜ける。3×3女子日本代表としても2019アジアカップで銅メダルを獲得するなど活躍。レッドウェーブの“走り勝つバスケットボール”の体現者。