BTテーブスヘッドコーチ 退団インタビュー
――今シーズンをもってレッドウェーブを退団することが発表されました。改めて、退団するに至った理由と、いつ決断したのかを教えてください。
BT 退団を決めたのは今シーズンが始まる前です。丸山茂実部長と吉田大輔GMに伝えました。退団を決めた理由は、公式のコメントでも発表しているとおりです。まずは10年という歳月。ひとつのチームに10年も関わるコーチは稀です。チーム状況を考えても、今シーズンを区切りにするのがいいだろうと考えました。また、これまでレッドウェーブにずっと関わってきて、ルイ(町田)が頂点に立つ姿を見るまでは辞められないと考えていました。昨シーズン、それを達成したわけですが、そのチームのポテンシャルを考えたとき、Wリーグの連覇ができるのではないかと考え、また私自身、皇后杯で優勝したことがなかったので、その2つを大きな目標にして、今シーズンに臨むことを決めました。もちろんシーズン前にはそれを達成できる保証はどこにもありませんが、レッドウェーブであればやってくれると信じ、その目標に全力を出すことで、私自身のラストシーズンにしようと考えたのです。3つ目の理由は、私自身が持つ夢や目標に向かって、新たなチャレンジに向かいたいと考えたことです。
――ではこれまでの10年を振り返っていただきたいと思います。まず2013-14シーズンにレッドウェーブのアソシエイトヘッドコーチに就任しました。チームの第一印象はどういうものでしたか?
BT 私はそれ以前に、7年間、高校の先生をやったことがあります。そこで体育を教えたこともあるので「女性に指導する」こと自体は、初めてではありません。でもそれはあくまでも高校生であって、トップアスリートではありません。正直なところ、女性アスリートをどう指導すればいいのか、不安もありました。ですから、少しずつ様子を見ながら、彼女たちを理解していくことから始めたのです。日本の女子バスケットの練習環境であったり、ピーキング、個々の性格の違いも含めて、少しずつアジャストしていったのです。
――翌年にはヘッドコーチに就任します。そこからどのように選手たちを導いていたのですか?
BT 当時は精神的なことをよく話しました。他のコーチがどこまでやっているかはわかりませんが、コミュニケーションが多かったと思います。多くの選手はミニバスケットから始めて、中学、高校、大学、そしてWリーグの世界に入ってきます。あくまでも一般論ですが、日本人選手はコーチから「こうしなさい」と言われると、それしかしない印象があります。当時のレッドウェーブの選手たちもそうでした。だから「Think for yourself(自分で考えなさい)」という言葉はよく使いました。バスケットはチェスのように一手一手を熟考しながら進めるスポーツではありません。私たちがこうしたら、相手がこのように反応してくる、だから私たちはそれにこう返す「リード&リアクト」のスポーツです。そこに心もつながります。だからこそバスケットをしながら、楽しんでほしいというアプローチをしました。バスケットを楽しめなければ、モチベーションを保つことは難しいものです。だから勝つことも大切にしながら、楽しくやりましょうと伝えていました。
――最初の2年間はいずれもファイナル進出を果たします。しかしあと一歩及ばず。その後、2年のブランクを経て復帰した後も、なかなか優勝をすることはできませんでした。
BT 今思えば、当時は選手個々のレベルも、チームとしてのレベルも、まだまだ優勝するには足りないものがありました。私自身のコーチングも物足りませんでした。でも、その多くは経験の乏しさから来るものです。これはもう成長を待つしかありません。新しいシーズンが始まる前に、前のシーズンを振り返って「昨シーズン、私たちはこれとこれがよかった。だからファイナルまで行けたけど、やっぱりプレーオフは別物だよ。だから、そこで戦うためにいろいろレベルアップしていかなければいけない」と伝えながら、練習の環境からよりよいものにしてきました。
――その悔しさを乗り越えて2023-24シーズンに、チームとしては16年ぶり、ヘッドコーチ自身としては初めての優勝を果たします。
BT 長かったなと思いました(笑)。やっと勝った……というのが優勝した瞬間に感じたことです。ただそれ以上に、ルイ(町田)がやっとタイトルを獲ったということに一番の喜びを感じたのです。退団のコメントでも「ルイが優勝するまでは」と言いましたが、それはルイにも言っていなかったし、誰にも言っていなかったことです。私の心の中で約束していたことです。
――そのチームが翌シーズン、つまり2024-25シーズンに皇后杯の優勝と、リーグの連覇を達成します。特に皇后杯は直前で林咲希選手が離脱して、本当に苦しかったと思います。
BT キキ(林)がいないことは確かに痛かったですが、レギュラーシーズンを通して、チームとして戦う準備をしていました。だからもし皇后杯で負けたり、Wリーグのファイナルで負けたとしても、その理由が「キキがいないから負けた」という意識はまったくなかったです。むしろ、キキが不在であっても、今シーズンのチームであれば、勝てると信じていました。実際に選手たちがよく頑張ってくれて、リーグを連覇してくれたことは本当にうれしかったです。ただ、それ以上に今シーズンは、韓国でのパク・シンジャカップで優勝して、皇后杯でも優勝して、レギュラーシーズン1位通過、そしてプレーオフでも優勝。12ヶ月という短い期間で、リーグ連覇だけでなく、今挙げたことを成し遂げたことがすごいな、それを達成した選手たちはすごいなと思って、それがすごくうれしかったです。
――ざっと振り返った10年ですが、この10年はテーブスヘッドコーチにとって、どのようなものでしたか?
BT 一言で言えば楽しかったです。もちろん苦労した時期もありましたが、10年を振り返ってみたとき、練習の時間も含めて、すごく楽しかった。当初はなかなか優勝できませんでしたが、レッドウェーブが毎年少しずつレベルアップすること、トップ4ではなく、トップスリー、トップツー、トップワンのレベル、その強さを見せられるようになりました。その過程が本当に楽しかったです。それはバスケットの話だけに限りません。この10年間、移籍や引退をしていった選手たちを含めて、いい選手たちと一緒に仕事ができたことが幸せでした。いや、選手たちだけでもありません。これまで私を支えてくれたアシスタントコーチやマネージャー、トレーナー、もちろん部長やGMなど、すべてのチーム関係者が私を支えてくれました。勝つためには厳しい練習環境を作らないといけませんが、そればかりになると誰だって疲弊してしまいます。そんなときに選手、スタッフがみんなで素晴らしい環境を作ってくれました。それぞれの役割、仕事であること以上に、みんなの人間性が素晴らしかったから、私自身もこの10年間を楽しむことができたのです。感謝しかありません。
――では最後に全国のレッドウェーブファンにもメッセージをお願いします。
BT 今のレッドウェーブは本当に立派なチームです。そのチームを育てるのはヘッドコーチだけではなく、スタッフだけでもなく、やはりファンのみなさんの存在が必要不可欠でした。どこに行っても応援しに来てくださり、なかにはそこで悔しい負けを分かち合ったファンもいたと思います。でもそんなときでも、ファンのみなさんがずっとレッドウェーブを信じてくれるから、私たちは強くなれたのです。なかなか優勝ができないチームであれば、ファンが減ってもおかしくないと思います。でもレッドウェーブのファンは減るどころかどんどん増えていきました。これはもう感謝しかありません。今のレッドウェーブはファンのみなさんにとって誇りだと思います。そう思ってもらえれば私はうれしいし、それで私の仕事は完成です。これまでセミファイナルを勝ち抜いたときや、ファイナルでも1勝したときのインタビューで私は「まだ私たちの仕事は終わっていないよ」と言ってきました。今シーズンのファイナルでも、ゲーム4だったかな、そう言いました。私たちには高い理想があるから、まだ仕事は終わっていないよと。でもその仕事は今、終わりました。今まで本当にありがとうございました。レッドウェーブと、レッドウェーブファンのみなさんがこれからも幸せであり続けるよう、私も新しいチャレンジをしながら、祈っています。本当にありがとうございました。