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陸上 富士通陸上競技部


FIELD EYE 口野 武史
失意あればこそ希望の明日へ

「何か」足りなかった2年、越えて見えた“上”

自己ベストとの戦い

富士通に入社した今年、口野は10月に参加した2大会で、自己記録を2日連続で更新してみせた。男子800mにおいて1分46秒71は、日本歴代4位の記録。口野は自己記録が出ないという苦しみからようやく解放された。

日本体育大学4年生だった昨年の日本選手権800mでは、横田真人(慶應義塾大)や笹野浩志(富士通)などそうそうたるメンバーを抑え優勝している口野だが、4月の富士通入社直後から、自己記録を縮められないプレッシャーを感じていた。「2007年7月の欧州遠征で自己記録を出して以降、ずっと“更新しないとマズイ”とは思っていたんです。さらに今年は、学生から社会人へと環境も変わった。でも、(記録が)出ない。周りには言いませんでしたが、考え込んだ時期はありました」。個人としては長い間、人に言えない悩みを抱えていた。

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「例えば、小学生だと年々成長しますから、練習をしていれば足は速くなります。でも、もうそういう歳ではない。何も考えずに練習だけしていても記録は伸びません。さらに上のタイムを目指すのであれば、どこかを変えていかないといけない。でも、自己記録の更新までにそれだけ長くスパンが空いたということは、何か間違っているのではないかと悩みました。もう、自己記録は出ないのではないかと思ったこともあります」。

そんな悩みを振り切るためにも、口野は今年6月の日本選手権にかけていた。「日本選手権は、やはり特別な大会。仕上がりも良かったので自己ベストを出そうと思っていた」。だが、決勝では1分49秒94の3位に終わる。「一応3位ですけど、前年の優勝からすれば“どうした?”ということになる。一番結果を出さないといけない試合だっただけに、本当に悔しかった」。

“変わることができた”1年

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日本選手権で失望を味わった口野は、7月の欧州遠征に出発。そこで、徐々に調子を取り戻す。まずは、9月の全日本実業団陸上で優勝。そして、迎えた10月17日の実業団・学生対抗陸上競技大会。待ちに待った自己記録更新の瞬間は、予期しない形で訪れる。「その前までのレースの方が感触は良かったというのが、率直な意見です。その日は当日朝まで、走るかどうか迷っていたぐらいでした」。この日、口野は1分47秒61の大会新記録で優勝。実に2年3カ月ぶりの自己記録更新だった。そして翌18日の日体大最終フィールド競技会で、前日のタイムを1秒近く縮める1分46秒71を記録。2日連続の自己ベスト更新と大きな進歩を見せる。

ただ18日のレースでは、記録は更新したものの一緒に走った横田真人(慶應義塾大)が日本記録を出して優勝。2着という結果に口野は、手放しで喜べない部分もある。「自己ベストを更新できて、素直に喜びもある。でも負けたらしょうがない。結局2着なので、満足はしていないです」。記録を出しても、負けた自分に納得がいかない。そんな口野の競技者としての気持ちを、正直に表した発言だ。

さらに2009年最後のレース、11月のアジア選手権(中国)は再び悔いの残る結果となる。「今年は実績で言うと1分46〜48秒台も多く出していますが、アジア選手権では予選が1分51秒6、決勝が1分52秒81。“どう考えても勝てるわけがない”数字だった。日本代表に選ばれて緊張していたのも知れませんが、それにしても悪すぎた」。そして、自分自身を追い込めなかったことに、引け目も感じる。「正直に言うと“出し切れなかった感じ”です。普通はレースが終わった後、四つん這いになるほど消耗しますが、今回はそれがなかった。直前には大学の先輩と一緒に練習させてもらったり、調整方法に関してワガママを聞いてもらったので、不甲斐なさでいっぱいでした」。

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自己記録は出したが、納得できないレースが続いた富士通1年目。口野は振り返る。「陸上競技は分かりやすいですよね。秒、センチ、点、全部数値で出る。だから、実績として確かなものを残せなかったことが、今年の悔しさのネックになっていると思います」。しかし一方で今年、口野が立派な記録を残したのも事実だ。この記録と経験は、間違いなく次につながる。だからこそ、未来を見据える口野は、この1年をこう締めくくった。

「でも、自己記録を更新して、かなり上が見えた年でもある。個人的には“変わることができた”1年だったと思います」。これからの自分を見ていてほしい。失意の1年目を終えた口野の言葉からは、そんな決意が伝わってくる。


目の前のことをこなした先に未来はある

陸上一家の中で

口野が陸上の道へ入ったのは、運命だったのかもしれない。父は、本人と同じく日体大出身で長距離の選手。母も高校まで陸上部だった。一緒に育った姉も長距離の道へ。陸上は口野にとって、「子供の頃から身近な存在」だったのだ。競技者としての始まりは、小学5年生の時に市民大会で走った1000m、1997年の大阪なみはや国体におけるデモンストレーションとしてのスポーツ行事の800m。そして自然と口野は、「陸上だったら活躍できるかも」と思い、中学校で陸上部へ入部する。

早くも才能を発揮した口野は、中学1年の近畿大会で1500m優勝。当時は中距離にこだわっていたわけではないが、翌年中学2年生で全国中学校大会に出場した口野は、その後のジュニアオリンピック1500mで優勝を飾る。本人が「そこが自分のピークだった(笑)」と言うほど充実した日々。口野は、1500mと800mを自分の主戦場に決めた。

そして高校は、関西でスポーツの名門校として知られる清風高校に入学。しかし高校時代で思い出すのは、やはり悔しい記憶だ。特に強く心に残るのが、高校2年生の時に参加した世界ユース大会(カナダ)。力を出し切れず準決勝で敗退し、悔しさを味わう。「その時は本当に悔しくて“ここまで来て何をやっているんだろう”というのがすごくあった」。

さらに高校3年生のインターハイもそうだ。「あの年はインターハイにかけていたのですが、1500mは11位。最低3番に入ろうと思っていた800mも4位。しかも3位と0.01秒差だったんですよ。表彰直前までビービー泣いていました。それから1週間はボーっとしていました」。今までも口野の人生は、悔しさが成功の糧となってきたのだ。

富士通の誇りを胸に

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口野は常に陸上と本気で向き合い、上を目指してきた。そんな彼にとって、富士通陸上競技部は“憧れのチーム”となっていた。「日体大を選んだのは、競技を最優先に考えての決断でした。それで大学2年生の時、同じ競技の先輩である笹野さん(当時富士通)に、自分から“富士通に行きたい”と言ったんです。本当に陸上を始めた頃から、日本一のチームである富士通に憧れていたんです。厳しいですけど、その中でやれば自分の誇りにもなる」。

富士通陸上競技部入部の夢を叶えた今、口野はチームの良さをこう語る。「富士通は、自由なチームだと思います。でも、みんながアスリートとして、すごくしっかりしている。“自由にやらせているから結果を出せ”みたいな(笑)。そういうところはすごいと思います」。口野は自分なりのこだわりを持つ選手だ。彼にとって、自分のペースでステップアップできる富士通は、最も適した場所なのかもしれない。

口野は、今も悩んでいる。「記録が出ない悩みは、自己ベストを更新するまで解決しない。そして、更新したらまたその繰り返し。何か達成したら次に考えるべきことがある。当たり前ですけど陸上競技は、そういうことなのかなと思います」。追及し続ける先の目標は、やはり競技者としての夢。「最終的にオリンピック出場は、目指すところではあります。数字で言えば、今年1分46秒台の壁を突破した。あと0.55秒なので日本記録も狙いたい」。決して手の届かない目標ではないはずだ。

しかし、口野にとって重要なのは今だ。「とにかく、目の前のことを考えていけば、それが今後につながると思います。来年はアジア大会のメンバーにも選ばれたい。選ばれるためには、日本選手権で良い結果(タイム)を出さないといけない。絶対に結果を出さなければいけないところで、確実に結果を出していく。それを目指していけば、アジア大会や世界大会にもつながると思います」。着実に一歩ずつ。これから先も、口野は記録への追及をバネに成長を続ける。


プロフィール

口野 武史

口野 武史
(くちの・たけし)

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口野選手あれこれ

  • よくライバルとして挙げられるのが横田真人選手(慶應義塾大)。意識はしているのでしょうか?「強いですからね。でも、1歳下なのもあると思うんですけど、意識しているって言いきっちゃうと悔しいというか(笑)」。
  • 陸上一家だけに、親からも陸上を勧められたのかと思えば、方針は自由。「うちの家族は本当に強要しないんですよね。逆に一歩引いて自由にやりなさいというタイプ」。だからでしょうか、本人も「自分にもし子供ができたとしても、たぶん陸上を勧めることはないと思います。やりたいんだったら、もちろん応援しますけどね」。
  • チーム内で仲のいい選手は誰ですか?「特別誰かと仲がいいっていうのはありませんが、中距離はみんな仲良しですね。先輩の引退パーティーで集まったり」。では、性格的に口野選手はどんな人?「熱しやすく冷めやすいっていうのも、当てはまると思いますね。ゲームも途中までハマって諦めるみたいな。ロールプレイングゲームも最後までクリアしたのはポケモンぐらいです(笑)」。
  • 中学1年生の時は、ジュニアオリンピックに中長距離の種目がなかったため、予選会で幅跳びに挑戦。結局3位になって本大会の出場権を逃したのだとか。「この時、もし幅跳びで大会に行っていたら、きっと今は幅跳びの選手になっていたと思います」
  • 激しさにおいては陸上競技の中でも屈指の種目と言われる800m。魅力はどこか?「展開にスピード感があって、2分弱だから集中して見られるところですかね。接触も駆け引きもありますから。僕はかなり体格が小さい方。接触で仕掛けると飛ばされたりするリスクが高くなるので、状況によって色々考えて走っています」
  • 大阪の清風高校と言えば、スポーツの超名門校ですよね。「高校では石井慧と同級生でしたよ。あとはプロのテニスプレーヤーもいますし、去年の体操のインカレチャンピオンとか。池谷さんとか田中光さんとか」。口野選手も先輩に続くことができるように願いたいと思います!

取材・文/NANO Association

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観客席から観ただけでは決して感じとる事のできない選手ひとりひとりのストーリー。

陸上への想い、悩みや葛藤、そして素顔の部分など、選手自身の言葉で語っています。

今後もFIELD EYEでは選手に密着取材し、富士通陸上競技部の選手を紹介していきます。