FIELD EYE 金 雄一(#30 RB)
遅れてきたビッグルーキー
2007年12月16日、甲子園球場改修のため、大阪・長居スタジアムで行われた「第62回毎日甲子園ボウル」。そのフィールドに金雄一はいた。大学日本一を決める大会だが、この年は優勝22回の関西学院大学(以下、関学)と、優勝20回の日本大学(以下、日大)の伝統校が対戦。過去20回以上の対戦をしていた両校であるが、日大が17年ぶりに出場するということで、「赤(日大)と青(関学)の対決」と注目された一戦となった。その日大のエースランナーとして、金はフィールドを駈け巡った。試合は逆転に次ぐ逆転のゲーム展開で残り数秒までもつれ、38-41で敗れたものの、96ヤードのキックオフリターンタッチダウンを決めるなどの活躍で、敢闘賞を受賞。日大が勝っていれば、間違いなく金がMVP、と言われた。そして4年生だった金は日大を卒業。しかし、翌シーズン、Xリーグで金の姿を見ることはなかった。
「アメフトは大学で十分、社会人ではやらないと、大学3年の時には決めていました」と金は言う。金は2008年4月、鉄道系企業に就職する。4年の甲子園ボウルの活躍で、現役に未練はなかったのですか?と尋ねると、「完全燃焼というか、やりきった気持ちがあったので、気持ちの変化は特になかったです」と答えた。周りからは「現役を続ければいいのに」と、よく言われたそうだ。それでも、その時点では、「そう言われても、社会人でまでやらなくていいだろう」と、金の気持ちは頑なだった。それが変化したきっかけは何だったのだろう。

これで現役生活に別れを告げた金だったが、鉄道系企業入社後半年が経ち、秋のアメリカンフットボールシーズンが始まった頃から、気持ちの変化が生じる。「小さい時からスポーツをずっと続けてきて休みがなかったですし、何か違うことをやってみようとも考えていて。ただ、実際に社会人になってみると、やることがあんまりなくて、ちょっともったいない気がした…」。そんな気持ちが芽生えた金は、母校の日大や、同期が多く入社した富士通の試合を見に行く。そこで、同期が社会人でアメリカンフットボールを続けているのを見ているうちに、「最後の甲子園ボウルに勝てなかった悔しさみたいなものも出てきて、アメフトへの思いがまた出てきました」。
会社を辞めて現役に復帰するか、このまま今の仕事を続けるかで金は悩み、富士通に入った同期などにも相談をした。そして出した結論はアメリカンフットボールをする、だった。金は富士通へ入社し、カムバックすることになった。「自分の決断が遅れてしまったせいで、チームや家族、いろんな方に迷惑をかけたと思いました。ただ、やると決断したからには、他の人よりは決意が固いので、がんばれると思いますし、がんばりたい」。辞めることになった会社の上司からも「自分がやりたいことがあるならがんばれ」と言われた。両親は就職した会社を辞めることに対してではなく、1年間ブランクがあることに対して、「いろいろ大変だぞ」と言葉をかけてくれたそうだ。
前の会社を辞め、3月の終わりに初めて練習に参加した金だったが、1年のブランクは大きかった。この時初めて金に会ったというマネージャーは「すごく色白で、ポニョっとしていました。私も彼の大学時代の試合を見ていたので、“どれだけスゴい選手が来るのだろう”と思っていたのですが、 “え、この子なの”って思うほど普通の子でした」というくらい、アスリートの身体ではなくなっていた。だが、トレーニングを再開した金は、春のパールボウルに出場できるまでになる。そして5月5日、ハリケーンズとのデビュー戦で、最長46ヤードのラン、合計で71ヤードを走り、2つのTDも記録。鮮烈な社会人デビューを飾った。
春のシーズンを終えて、「ある程度やれそうだ」という感触はありましたか?と聞くと、「うーん」と考えた後、「どうでしょう。最後のシーガルズ戦の負け方は悪かったですし、自分もその試合は何もできなかった」。そして、ここまでを振り返って、「練習に追われていて、ウエイトトレーニングがあまりできなかった」と、まだ大学時代のコンディションには戻っていないようだ。それでも、金は7月の「ノートルダム・ジャパン・ボウル2009」で、日本代表に選ばれた。本人がまだまだという春のプレーでも、各チームのコーチに強烈な印象を与えていたのだった。

春は十分なコンディションで望むことができなかったが、秋のシーズンに向けてどのような準備をしているのだろうか?「もう開幕戦まで1カ月を切っているので、劇的に伸ばせるところは少ないと思います」と語る金だが、フロンティアーズのランニングバックは現在6人と競争が激しい。春は出場できなかったエースランナーの進士祐介も、ケガが順調に回復しており、春に活躍した金でも、秋の出番が保証されているわけではない。「まず、勝つことが大前提ですが、試合に出ないと意味がないと思うので、この1カ月で出られるようにコンディションを上げていきたい」と意気込みを語る。
最後に今シーズンについて聞くと、「甲子園ボウルでは負けましたけど、いい終わり方ができたと思っていました。でも今は、勝たないと意味がないと思っているので、勝つために自分が何をしなければいけないかを考えながら、試合に挑んでいこうと思っています」と言った金は、こう付け加えた「1年目だから、とかそういうことを言っていられる立場ではないと思っています」。一度は離れたアメリカンフットボールの舞台に再び戻ってきた金雄一、遅れてきたルーキーの完全復活に期待したい。

- 金 雄一
- (こん・ゆういち)

- RB(ランニングバック)

- 30
- 現在の配属は汐留にある本社事務所の総務部。「6月中旬くらいまで新入社員全体で研修があり、その後は部門ごとに研修。7月の頭からは実務に入りました」。
- 一番仲のいい選手は誰ですか?の質問に「日大でも同期だった松林(大樹)ですかね。こう言うと向こうは、“別に”って言ってくると思いますけど(笑)」。でも、休みの日に一緒に遊びに行くということはあまりないらしい。
- 現在の住まいは会社の寮。休みの日は「何もしないです」とのことだったが、「ボウリングはときどき行きます」。ハイスコアは200を超える腕前。
- 周囲の反対を押し切り、一度は現役を引退した金選手。復帰が決まったときの、友人の反応は「結局か」(笑)だったそう。それでも応援に来てくれるそうだ。
- 好きな食べものは「肉よりは寿司」とのこと。好きな寿司ネタは「サーモンとか、えんがわ」と渋い。勤務している新橋界隈にはお寿司屋さんも多いので、「まだこのあたりのお店には行ってないので、一度先輩に連れていってもらおうかな(笑)」。
- 中学までは野球少年。日大鶴ケ丘高校でも野球をするつもりだったが、レベルの高さに断念。クラスメイトに誘われアメリカンフットボール部に入部。ちなみに野球でも足を行かせる1番バッターだった。
取材・文/NANO Association







