塚原直貴、1時間半以上サインを続けた”男気”のメダリスト。引退レースは選手第一の長野で。


いくつかある塚原直貴にまつわる記憶の中で、思い出されるのは、こんな出来事だ。

2016年、全日本実業団陸上選手権。ヤンマースタジアム長居で行われた、この大会。
男子100mに出場した塚原は、11秒01で予選敗退となった。
この後、サブグラウンドに向かう途中のスタジアム外周で、彼はファンからサインを求められる。
筆を走らせ始めた人気選手の前に、数十人の行列がすぐにできていた。

彼のコメントを聞くのは後にして、大会取材に戻る。
そして、約1時間半後に同じ場所を通った時のことだ。
まだ、塚原直貴が同じ場所でサインを続けている!
むしろ、行列の人数が増えている。
9月ではあったが、立っているだけでも体力を奪われそうな炎天下の中、彼はサインの手を止めることなく、笑顔で写真撮影に応じていた。
再びその場を立ち去った私は、それから数時間後、彼にコメントを聞いた際、そのことにも触れた。「ずいぶん長い間、サインをされていましたね」と。すると、彼はこう話した。

「こういったところでの、ファンの方との触れ合いも大切にしたいので。あと、ラウンドがあがっていく選手はそういうことができないので、一手に担えれば、という想いもありました。そういう選手たちあっての今の立場ですから、少しでもサポートになればと」

もっと、感動のレースや日本陸上界に残る偉業はたくさんあったはずだ。
それなのに、塚原直貴という選手に関して一番強く記憶に残るのは、そんな男気溢れる発言や、ファンを大切にする姿勢である。
そんな、気持ちを前面に出した走り・試合が、塚原の一番の魅力だったのではないかと思う。

そして2017年6月、塚原直貴の引退レースが地元長野で、2017年日本選手権・混成[十種競技]大会のひとつのイベントとして行われる。
大会1日目終了時点で、十種競技日本記録保持者の右代啓祐選手は、同日マットの移動や寒さ対策などに素早い動きで対応した長野大会の運営に関してこう話していた。「本当にここはいいですね。関係者の皆さんのサポートが素晴らしく、良い記録を出すために一丸なってサポートしてくださっている。その思いが伝わります」。

ファンを大切にし続けてきた塚原の引退レースは、選手を大切にし続けてきた長野で。
まさにうってつけの舞台のように思う。

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